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-WE DISCUSS VANA’DIEL- 特別対談
石井浩一×天野喜孝 <後編>

“プロデューサーセッション -WE DISCUSS VANA’DIEL-”の特別編としてお届けしている石井浩一さんと天野喜孝さんの対談は、いよいよ『ファイナルファンタジーXI』(以下、『FFXI』)の話題へ。『FFXI』の開発初期、ディレクターだった石井さんは、日本国内の家庭用ゲーム機では前例のないMMO(多人数同時参加型オンライン)RPGをいかに広めるかを考えた末、天野さんにワールドマップの制作を依頼する。しかし、そのアートの規模は、予想を大きく上回るものとなった。

※本稿では、IP(知的財産)としての『ファイナルファンタジー』と、1作目の『ファイナルファンタジー』の混同を避けるため、1作目については便宜的に『FFI』の呼称を使用いたします。

※特別編 石井浩一×天野喜孝 前編へ

石井浩一

株式会社グレッゾ代表取締役。黎明期のスクウェアにおいて『FFI』を企画し、シリーズ第3作までゲームデザインなどを担当。その後は『聖剣伝説』シリーズなどのディレクションを手がけたのち、『FFXI』で『FF』シリーズに復帰。本作の世界“ヴァナ・ディール”の基盤を創り上げるとともに、拡張データディスク『ジラートの幻影』までの期間はディレクターを担当した。

天野喜孝

日本のファンタジー界を代表するイラストレーターであり、映画や演劇の舞台美術、衣装など、多方面で活躍するアーティスト。竜の子プロダクション(現:タツノコプロ)のデザイナーとしてキャリアを開始し、その後にイラストレーターとして独立。小説やアニメなど、数多くのファンタジー系作品でイラストやキャラクターデザインを手がけ、『FF』シリーズに関しても『FFI』から現在に至るまで、34年以上にわたって関わり続けている。

MMORPGの広大な世界を伝えるべく、特大規模の“ワールドマップ”を制作

  • 『FFIII』の開発を終えたあと、石井さんは『聖剣伝説』シリーズを中心に数々の作品を手がけられます。そして約10年後に、『FFXI』で再び『FF』シリーズに戻られるわけですが……。

  • 石井

    戻ったというか、戻されたというか……。坂口さん(坂口博信氏。『FF』シリーズの生みの親のひとり)から『FFXI』の開発への参加を打診されたのですが、しばらくのあいだは断り続けていたんです。でも、坂口さんから、MMORPGをプレイしてから、やるかどうかを判断してくれと言われて、『EverQuest(エバークエスト)』(※)などをプレイしました。プレイしていくと、「『FFI』のころに思い描いていた幻想世界を、最新技術を使って実現できる」と気づいて、興味が湧きました。ファミコンのころと比べると、ハードウェアのスペックなど何から何まで違いますから。言いかたは悪いですが、“世界を作る”という自分のクリエイターとしての欲望のために、『FFXI』を利用していた部分もあったのかもしれません。

    ※『EverQuest(エバークエスト)』は、1999年に米国でサービスを開始した海外産のMMORPG。
  • 石井さんにとって、デジタルでの世界の創造はクリエイターとしての原点でもありますしね。

  • 石井

    そういった流れで『FFXI』の仕事を引き受けた自分が最初に何をしたかというと、かつて『FFI』を作ったときの自分自身を思い出すことでした。自分はクリエイターとして何をテーマにして、何を大事にしたかったのか。なぜクリスタルや四大元素といった要素を取り入れたのか。そして、なぜ『FFIII』の後に『聖剣伝説』を作りたくなったのか。これまでの創作の流れを振り返りながら、徹底的に考えたんです。

  • しかも『FFXI』は“『FF』シリーズ最新作”というだけではなく、日本の家庭用ゲーム機において前例のなかった“MMORPG”です。その点でも悩まれたのではないですか?

  • 石井

    ご存じの通り当時の日本では、MMORPGというジャンルはまだ広く認知されていませんでした。ですからディレクターとしてだけでなく、プロデューサー的な視点でも考えたときに、“MMORPGを知らない人たちに、このゲーム内の世界をどうやって認知させるのか?”ということが大きな課題になると思ったのです。そこで、ひさびさに天野さんに会って、自分が思い描いていた『FFXI』の構想を話すことにしました。

  • 天野先生は石井さんから『FFXI』の話を聞いて、どのように感じたのでしょうか。

  • 天野

    「世界中の人たちがオンラインで集まって遊ぶのって、すごいことだな」と思いました。同時に、「この世界を絵でどうやって表現すればいいのだろうか?」と悩みましたね。

  • 石井

    そこでまず、MMORPGを知らない人や、ゲームにログインしていないプレイヤーでも世界の広さを感じられる“何か”が欲しいと思いました。それは“ワールドマップ”ではないかと考えたのです。そのことを天野さんに伝えると、何か感じるところがあったような様子だったので、とりあえずはひと安心して最初のミーティングを終えました。そして、つぎの打ち合わせで天野さんのアトリエへ行ったときのことです。アトリエには畳ほどの大きさの紙が4枚も並べられていて、「これはまた、何かの大きな仕事を受けられているんだな……」と横目で見ながら、興味本位で「これに何を描くのですか?」と聞いたら、「『FFXI』のワールドマップだよ」と言われて。思わず、「は?」と聞き返してしまいました(笑)。

  • それがあの有名な金屏風のワールドマップなのですね。

ILLUSTRATION: ©2002 YOSHITAKA AMANO

  • 石井

    当初の自分のイメージでは、どんなに大きくても畳1枚ぶんくらいの大きさがあれば十分だったんです。でも天野さんは、「どうせなら、鳥獣戯画(※)や洛中洛外図(※)のようにしたいんだよ」と言い始めていて。「これはとんでもないことになったな……」と思いました。

    ※鳥獣戯画は、京都の高山寺に伝わる絵巻物。カエルやウサギといった動物たちが擬人化されて生き生きと描かれている。
    ※洛中洛外図は、京都の市街・郊外を描いた屏風絵。おもに戦国時代~江戸時代に描かれた。
  • 天野

    石井さんから『FFXI』の構想を最初に聞いたとき、その壮大さに圧倒されました。また、そんなゲームの舞台となるヴァナ・ディールのワールドマップを描くという作業は、大袈裟にいうと、“世界を創世するようなもの”だと思えたのです。それと、これは僕の勝手な思い込みかもしれませんが、ゲーム内の世界も何百年か経ったら、いつか神話のように語り継がれることがあるのかもしれない。そういった世界観を絵で表現するのは、ひとりの絵描きとして大きなチャレンジになるだろうなと考えました。

  • それにしても、これほどまでの大きさになるとは……。

  • 天野

    洛中洛外図も屏風絵でしたので、このワールドマップも並べて飾ったら、きっと壮観になるだろうと思いました。そこで、当時入手でき得るもっとも大きな紙を用意して描きました。仮にもっと大きな紙が入手できていれば、あのワールドマップはさらに大きくなっていたかもしれません。

クリエイターどうしがお互いに刺激を与えて作品を作り上げる

  • このワールドマップはそのスケールもさることながら、細部を見ると、地域と描かれているモンスターとの関係性が実際のゲームと一致している点にも驚きました。

  • 天野

    そこは石井さんが、すごくこだわっていましたね。

  • 石井

    『FFXI』プレイヤーがこのワールドマップを見たときに、「ゲーム内と全部合っている!」と言わせたかったんです。いちプレイヤーとして空や星などを見上げていた世界を、俯瞰して見るとこうなるんだということを体感してもらいたかった。そのためには、ゲームに極力忠実でなければならないわけです。それに、絵を眺めているだけで世界に入り込めたり、ゲームを遊んでいたときのことを思い出せたらすばらしいですよね。そういったロマンみたいなものを絵で表現できればと思ったのです。

  • とても素敵ですね。

  • 石井

    でも、口で言うのは簡単ですが、実際に作るのはたいへんでした。線画や着色を終えて、「ようやく完成が見えてきたのかな」と思いながら、ある日、天野さんのアトリエへ行くと、何種類もの金箔が入った箱が積み上げられているんです。「金箔って、こんなにいろいろな種類があるんだぁ」と感心していたら、「これ貼って」と手伝わされました(笑)。マップ中に描かれている雲なども、丸めた金箔を重ねて描かれています。

  • 石井さんが天野先生にクリエイターとしての刺激を与えた結果、ここまで壮大な作品になっていったということなのでしょうね。

  • 天野

    刺激というか、無理難題というか……(笑)。

  • 石井

    いや、自分はあそこまでの無理をお願いしたつもりはないですよ!(笑)

  • 天野

    でも、石井さんの想いはすごく伝わったし、僕自身も新しいチャレンジができることにワクワクしていました。まぁ、石井さんにノせられたということなんでしょうね。

  • 石井

    それと、これは今回の対談で話すべきか悩んだのですが……ワールドマップを天野さんに描いてもらうときに、もうひとつ考えていたことがあります。それは、「僕や坂口さんが離れたあとの『FF』シリーズは、天野さんの才能を100%生かし切れていないのではないか」という想いです。確かに、天野さんがいてこその『FF』シリーズですが、単純に作品に合わせた絵を描いてもらえばいいかというと、それは違う。天野さんに作品のテーマをきちんと伝えて“ノってもらう”ことで、初めていい作品が生まれるわけです。少なくとも、自分が関わっていたころの『FF』シリーズは、そうやっていっしょに作り上げてきた自負があります。ですので、自分が『FFXI』に関わるからには、あのころの天野さんとの関係を取り戻したいと考えました。天野さんにノってもらえば、よりスゴイものができることを、若いクリエイターに向けて示したかったんです。

  • クリエイターどうしが互いに刺激を与えて生まれるものが『FF』のイラストであると。

  • 天野

    石井さんも言う通り、このワールドマップは僕ひとりでは完成させられなかったですね。じつはこの仕事のあとにも、これくらいの大がかりな仕事をやろうとしたことがあったんです。でも、どうしてもできなかった。そういう意味でも、このワールドマップは僕にとって大事な作品ですね。こんな仕事ばかりだとたいへんですが(笑)。

  • 石井

    当時、自分は『FFXI』の仕事を終えたら、もう二度と『FF』シリーズには関わらないと決めていました。つまり、天野さんと仕事で深く関われるのも、もしかするとこれが最後になるかもしれない……。そういった想いも含め、天野さんとの仕事の集大成として何かを残したいと考えていたので、このワールドマップは自分にとっても非常に感慨深い作品ですね。

  • もはや、ゲームのイラストという範疇を超えた、まさしくアートだと思います。

  • 天野

    僕の目から見ても、これは明らかに超えていますね。また、このワールドマップの仕事をきっかけに、絵描きとしての新しい道が開けた部分もあるんですよ。

  • 石井

    そういえば、天野さんは日蓮宗の曼荼羅にちなんだ“法華経画(※)”も手掛けられていますよね。『FFXI』のワールドマップから時を経て、こういった仕事を手がけられたことが興味深かったです。

    ※日蓮聖人降誕800年慶讃事業として描かれたもの。詳しくはこちらを参照。
  • 天野

    よくご存じですね。じつは、依頼をしてくれた日蓮宗の方が、『FF』シリーズが大好きだったんです。そこでもワールドマップの話で盛り上がった流れで、あの仕事を引き受けたんです。曼荼羅は神話体系や宇宙観を表すもので、僕にとっては『FFXI』のワールドマップのテーマに近いものを感じました。大きな掛軸に線画を描いてから金箔を貼るなど、制作手法の面でも、あのときの経験が役立ちました。

  • “ワールドマップを作ることで『FFXI』の世界を広く伝える”という当初の目的について、手応えはいかがでしたか。

  • 石井

    手応えは十分にありましたね。これが完成したあと、巨大なポスターにして渋谷の一等地に広告を掲載したんですが、あの眺めはじつに壮観でした。渋谷を行き交う人たちが、このワールドマップを見て驚く様をイメージしながら制作したので、それがやっと実現されたときは本当にうれしかったですね。

  • 『FFXI』プレイヤーの皆さんも、このワールドマップを見れば、きっといろいろなことを思い出せるはずです。

  • 石井

    しかもそうやって振り返るゲーム内の記憶は、人によってそれぞれ異なるわけです。その多様性こそ、MMORPGならではの大きな醍醐味のひとつですから。本当にいろいろな意味で、このワールドマップは単なる“絵”ではない。天野さんは、そういう作品を手がけられたのだと思います。

  • 天野

    石井さんのおかげですね。

  • ワールドマップ上で忠実に描かれているモンスターを見て思い出したのですが、石井さんは最初にヴァナ・ディールという世界を構想した時点で、かなり深いところまで世界設定を考えていたとうかがいました。

  • 石井

    ええ。自分が坂口さんの説得を聞き入れた大きな理由が、“これまで頭の中で思い描いていた世界をデジタルで実現できること”でしたから。各エリアの地層や気候、動・植物の生態系、食物連鎖……そういった設定のひとつひとつが世界に深みをもたらすと考えていましたし、逆に世界設定の強引な後付けやこじつけなどは絶対にやりたくなかったんです。

長年続いてきたからこその“ヴァナ・ディールという世界の厚み”

  • 続いては、『FFXI』のタイトルロゴを天野先生が手掛けられたときを振り返っていただけますか。

  • 石井

    これを制作したときは、「ほかのプレイヤーといっしょに遊ぶゲームであることをタイトルロゴでも表現したい」と天野さんに伝えました。

  • 天野

    でも当時はMMORPGというものを知らなかったので、とまどいましたね。「主人公はどういった設定なのですか?」と聞いても、「主人公はプレイヤー自身です」と返されたりして(笑)。とりあえず、思いつくままにラフを描いていったのを覚えています。

  • じつは、当時のラフがスクウェア・エニックスに保管されていたので、今回は持参しました。

ILLUSTRATION: ©2002 YOSHITAKA AMANO
  • 天野

    うわ! これ、まだ残っていたんだ(笑)。当時、滞在していたパリからFAXで送ったんですよ。それにしても、ずいぶんといろいろなアイデアを出したんだねぇ。

  • 天野先生は、いつもこんなにたくさんのラフを描かれるのですか?

  • 天野

    石井さんといっしょに仕事をするときは毎回そうなのですが、話を聞いていると絵のイメージがつぎつぎとあふれてきて、止まらなくなってしまうんです。そして一気にラフを描きまくって、疲れたらFAXで送って反応を聞いてみる、といったことをくり返していましたね。

  • 石井

    天野さんがノったときの集中力は本当にすごいですよ。また、そんな天野さんに自分も引き込まれて、互いに刺激を与え合っていたと思います。そういった意味では、天野さんのイラストの描きかたは、ジャズのセッションに近いものを感じますね。

  • 天野

    僕の場合、そのときに受けたインスピレーションをもとに描くことが多いんです。ですから、あとで「もう一度、あのイラストのように描いてくれませんか?」と頼まれても、再現できなくて困ってしまうことがあります。

  • 石井

    天野さんほどの巨匠でも、ラフの段階でここまで多くのバリエーションを考えているわけです。若いイラストレーターさんは、ぜひ参考にしてもらいたい部分ですね。

ILLUSTRATION: ©2002 YOSHITAKA AMANO
  • その後 『ジラートの幻影』がリリースされ、石井さんは『FFXI』の開発チームから離れられます。一方の天野先生は、以降の拡張データディスクでもイラストを手がけられていますね。

  • 石井

    『FFXI』から離れた後も天野さんの絵は拝見していました。この『アトルガンの秘宝』のパッケージイラストは、いまでも印象に残っていますね。

ILLUSTRATION: ©2006 YOSHITAKA AMANO

  • 天野

    新たな舞台となるアトルガン地方が、これまでと違って中東をモチーフにしているとのことで、“扉をくぐって第一歩を踏み出す”というイメージで描いた記憶があります。建築物のデザインも、中東のような雰囲気にしました。

  • 素敵なイラストですが、これに石井さんが関わられていたら、天野さんにどのような影響を与えていたのかが気になるところです。

  • 天野

    きっと違った形になっていたでしょうね。ああしたほうがいい、こうしたほうがいい、などと言ってくる光景が想像できます(笑)。

  • 石井

    でも、口を出すなら責任者としてディレクターに戻らないといけないから、軽率には言えませんよね。そんな感じで、離れたあとの『FFXI』に対しては、遠くから見守る父親のような心境でした。

  • そのつぎの『アルタナの神兵』のパッケージイラストには、女神アルタナが描かれています。これを見て思い出したのですが、先ほどのワールドマップでも、中央にアルタナが大きく描かれていました。石井さんは最初にヴァナ・ディールを創造したときから、女神アルタナの設定を考えていたのでしょうか。

ILLUSTRATION: ©2007 YOSHITAKA AMANO

  • 石井

    そうです。女神信仰として、アルタナをヴァナ・ディールでいちばんの神にしたいと考えていました。

  • ちなみに、『FFXI』の最終章シナリオ“ヴァナ・ディールの星唄”でも、女神アルタナは重要な役割を担っています。ワールドマップを手がけられてから10数年が経っても、あの絵がゲーム内とつながり続けていることを、改めて感じます。

  • 石井

    自分がディレクターを担当していたころは、あのワールドマップを雛形に、今後実装するシナリオ制作を加藤さん(加藤正人氏。『クロノ・クロス』の監督・脚本・演出を担当)を中心として遂行していました。そしてその後も、佐藤さん(佐藤弥詠子氏。プランナーとして数々のミッションやクエストの物語を担当)をはじめとしたシナリオ関連のスタッフが、あのワールドマップを見ながら一生懸命に深掘りして、ヴァナ・ディールを築き上げていったんです。やはり、そうやって長年続けていると、世界としての厚みが出ますね。ちなみに、自分が最初に思い描いていたヴァナ・ディールの構想の中には、いまだにゲーム内に反映されていないものもあると思います。ですが、そういった構想があること自体がデジタル世界に深みをもたらしていたと思いますし、もしかするとプレイヤーの皆さんも、その片鱗をどこかで感じ取っていたかもしれないですね。

  • そして天野先生は、特設サイト“WE ARE VANA'DIEL”のイメージイラストも描かれています。

  • 石井

    天野さんらしい絵で、とてもいいですね。なんというか、冒険者が一丸となって「『FFXI』は20年経ってもまだまだ行くぞ!」というようなポジティブさを感じます。それにしても天野さんの絵は、シルエットを見るだけですぐわかりますよね。実際のところ、天野さんに影響を受け、こういう雰囲気を真似して描く人は多いんです。でもやはり、この独特のタッチは真似しようと思っても難しいですよね。

『FF』シリーズは、ふたりにとっての“原点”

  • そろそろ取材終了の時間なのですが、天野先生にとって“『ファイナルファンタジー』の仕事”とは何なのかを、改めて教えていただけないでしょうか。

  • 天野

    ひと言でいうと、“新しいものに対するチャレンジの原点”ですね。イラストレーターとして独立したあとは、つねに新しいチャレンジを模索していて、それによって僕自身も成長し、活動の幅を広げることができました。それらの仕事の中でも、石井さんはつねに絵描きとしての自分に刺激を与えてくれて、僕の可能性を最大限まで引き出してくれました。本当に感謝しています。

  • 石井さんは、ひさびさに天野さんにお会いになられていかがでしたか?

  • 石井

    自分は『FFI』があったからこそ、あこがれていた天野さんにお会いできて、その後もいろいろな仕事をいっしょにさせてもらえました。昔の自分に伝えたいほど、夢のような話です。これまで『FF』シリーズに関わってきて、ゲームクリエイターを続けてきて本当によかった。いま、そのことを実感しています。

  • しかも、一度だけの仕事としての関係ではなく、お互いに刺激を与えながら、『FF』シリーズを切り開いてこられたわけですからね。

  • 石井

    そうですね。当時の自分は、天野さんがいい絵を描いてきたら、それに見合うゲームを作らねばならないと必死でした。ちょっとおこがましいですけれど、天野さんに対してライバル心のようなものも持っていたのだと思います。そのことも、『FF』シリーズのクオリティを高められた理由のひとつだったのかもしれませんね。それと最近よく感じるのは、クリエイターにとっての“欲の強さ”の大切さです。たとえ周囲から「それは無理だ」と言われても、欲が強ければ乗り越えられることも少なくない。自分はとにかく欲が強くて、きっと天野さんもそうなのだと思います。当時のスクウェアにも、坂口さんをはじめ、欲が強い人がたくさんいました。そういった人たちに囲まれることで、自分も育てられてきたんですよね。

  • 今回の対談で『FFXI』を作られていた当時を振り返られて、いかがですか?

  • 石井

    いや、たいへんだったなぁ……。たいへんだったことしか思い出せない(笑)。

  • 天野

    それでいいんですよ。楽な仕事は記憶に残らないし、あとから振り返ることもないでしょう。

  • 石井さんや天野先生をはじめ、開発者たちが注いだエネルギーがすさまじかったからこそ、いまもなお多くのプレイヤーが楽しんでいるわけです。苦しみ抜いて産んだ甲斐はあったのだと。

  • 石井

    いつも申し訳なく思うのですが、自分は“産みっぱなし”というか(苦笑)。育ての親は後任の開発者たちです。でも20年が経っても、こうやって立派に続いているのはすごいことですよね。いまのプレイヤーにとって、『FFXI』はどのように映っているんでしょうか。

  • それは、もうひとつの人生ですよ。ここまで生活に密着したゲームはなかったと思います。

  • 石井

    自分が関わっていたころの『FFXI』は、何かにつけて時間を要するゲームバランスでしたからね。加えて言うと、自分ひとりでは生きていけないきびしい世界でしたので、ほかのプレイヤーに対する思いやりや、冒険者として生きることに対する自覚や悩みなど、いろいろなことを考えなければならなかったはずです。でも、そういったきびしい世界だからこそ、何かを達成したときに「よかったね」とお互いに笑顔になれる場面もある。『FFXI』の開発中は、そんな世界を作れることに魅力を感じていましたし、また、自分が作るべきだとも考えていました。

  • 天野

    話を聞いていて、石井さんは“デジタル世界を作る”という目的が最初にあって、そのための表現方法としてゲームを選ばれているのかなと思いました。これからも、新たな“石井ワールド”をガンガン作ってほしいですね。

  • 石井

    確かに、現在は表現ができる場や技術的なアプローチなどが大きく広がっていて、“ゲームでなければいけない”ということは、もうないのかなと思うことがあります。でも、“デジタル世界の創造”は自分にとってのテーマとして変わらないと思います。このテーマで何ができるのかは、これからも考えていくでしょうね。

  • 天野

    いろいろな可能性があると思うので、実行されるときは、また真っ先に教えてください(笑)。

  • それでは最後に石井さんから、現在も『FFXI』を遊んでいるプレイヤーに向けてメッセージをお願いします。

  • 石井

    『FFXI』を大切にしてくれて、本当にありがとうございます。ここまで来ると、シンプルに「ありがとう」の言葉しか出てきません。もう、感謝しきれないくらい感謝しています。最近はさまざまな場面で、自分が感謝できるという状況が、いかに幸せなことであるのかというのを実感しています。これからも『FFXI』がプレイヤーの皆さんの記憶とともに、新たな思いやりにあふれた世界になっていくことを心から願っています。

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