『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)のオーケストラコンサート“交響組曲エオルゼア”が、東京・有楽町の東京国際フォーラムにて2日間の日程で開催。2017年9月23日の夜の部の公演後に、『FFXIV』プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏、サウンドディレクターの祖堅正慶氏、そして『ファイナルファンタジー』サウンドの生みの親である植松伸夫氏のお三方にインタビューする機会を得たので、その模様をお伝えしよう。

『FFXIV』オーケストラコンサート“交響組曲エオルゼア” 吉田氏&祖堅氏&植松氏インタビュー_01

 当日のオーケストラコンサートはネタバレ厳禁な演出が満載だったので、そうした部分は極力取り除いた。イベントの詳細は後日詳しくお伝えするのでお待ちいただきたい。なお、読みやすさを確保するため、インタビューに若干ながら編集を加えている。そのため本記事は、お三方の実際の発言と完全に一致しているわけではないので、あらかじめご了承願いたい。

海外のファンにも単独公演を届けたい!

『FFXIV』オーケストラコンサート“交響組曲エオルゼア” 吉田氏&祖堅氏&植松氏インタビュー_02
左から植松伸夫氏(文中は植松)、プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏(文中は吉田)、サウンドディレクターの祖堅正慶氏(文中は祖堅)。

──念願の『FFXIV』単独のオーケストラコンサート開催となりましたが、1日目を終えたいまの率直な気持ちをお聞かせください。

祖堅 僕の父親がオーケストラの団員だったので、コンサートはよく観に行ってたんですが、まさか国際フォーラムでやるとは……しかも4公演ですよ?(笑)。率直に「なんだそれ」みたいな感じでした。今日の公演を終えてみて、けっきょくのところプレイヤーの皆さんに支えられているタイトルだなとつくづく思いましたね。僕や植松さんが作ったとかそういうことではなく、プレイヤーのゲーム体験をサウンドとして蘇らせたものを聴いて楽しんでくれている姿を見て、皆さんに支えられているんだなと改めて思いました。ですので、コンサートがうんぬんという感じでもないです。

──音楽的な何かというよりも、まずはプレイヤーへの感謝を感じたと。

祖堅 そうですね。本当にそう思いました。コンサートが始まる前にゲネプロ(最終リハーサル)があったんですが、それが終わった後に関係者用出入り口のガラス窓のところまで走って行ったんです。そのときに、有楽町駅から東京駅まで続くあの通路に、3往復くらいの列ができているのを見て……唖然としました(笑)。本当にプレイヤーの皆さんに支えられているタイトルです。あの……音のことを話したほうがいいですか?(笑)

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開場前の東京国際フォーラム周辺の様子。通行人が驚くほどの長蛇の列が形成されていた。

──祖堅さんらしいなと(笑)。ですが、もし何かあればお伺いしたいです。

祖堅 音に関して言うと、東京国際フォーラムでのオーケストラコンサート自体は2回目なのですが、自分の作った曲がこういう大舞台で、しかもゲームを愛してくれているプレイヤーさんに届けられるのは本当に幸せだと思いました。
(編注:『FFXIV』の楽曲自体は、『FF』シリーズのコンサートツアー“Distant Worlds: music from FINAL FANTASY JOURNEY OF 100”において東京国際フォーラムで演奏されている)

──オーケストラの譜面も祖堅さんが全部書き起こしたのですか?

祖堅 さすがにですね……(苦笑)。最終的なところは、ちゃんとした専門家に頼みました。基本的な部分を自分が担当したうえで、専門家の方にお化粧直しをやっていただきました。僕はゲームに合わせるためにしか楽曲を作ってないので、それをオーケストラで演奏できるようにうまいこと譜面にしてくれる方にお願いしています。いろいろなパターンを駆使して、今日演奏するための譜面を用意した感じです。僕だけではなく、たくさんの人に手伝ってもらいました。

──それを見て、何か新しい発見がありましたか?

祖堅 そうですね……オーケストラ譜面というものは、案外細かいなと。文字が小さいですね(笑)。

──これだけのものを用意するのはたいへんだったと思うのですが、準備にどれくらいかかり、どこに苦労されましたか?

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吉田 会社に話す前に会場を押さえてしまったので(苦笑)。去年の9月くらいに音楽出版部のとある男から「来年の9月23日と24日であれば、いま決断してくれるなら東京国際フォーラムが押さえられますがどうします?」と聞かれて、「『FFXIV』がそのときどうなっているのかもわからないけど、1回であれば何とかなるんじゃないかな。たとえ8人しかお客様がいなかったとしても、やる価値があるのではないか」と話して、その場でゴーサインを出しました。その後になって、どうやって会社を説得しようかなと(笑)。ちゃんと興行にならないといけないですし、当然、本業の『FFXIV』でキチンとした会社貢献をする必要がある……。利益的なものもそうですし、お客様の満足度も同時に作っていかなければなりません。それで僕らががんばれることと言ったら、『紅蓮のリベレータ―』をリリースするまでプレイヤーの皆さんに楽しんでもらい、そのうえで高品質な拡張パッケージを出すということ。そのころは、このふたつに集中すればいいのかな、という感じでやっていきました。興行面でご協力いただいたプロマックスの皆さんに加え、我々のマネージャーチームや音楽出版を始めとする、数えきれないくらいの人たちに動いてもらいました。本当に1年掛かりでやってきた感じですね。

祖堅 譜面は2年掛かりです(笑)。

──将来的にコンサートを実現させることを前提に、ずっと譜面を用意されてきたと。

祖堅 そうですね。あれだけプレイヤーさんに言われたら、いつかはやらなければならないだろうと思っていたので。プロデューサーにもナイショで動いていました。

吉田 知ってたけどね。

祖堅 バレてーらー(苦笑)。

一同 (笑)

吉田 でも、やるからには大きな箱(会場)でやる……そう決めた理由は、我々の自尊心というよりも、プレイヤーの方が来場されたときに「俺たちの遊んでるゲームはこんなにすごいんだ」と思ってもらいたい気持ちが強かったからです。挑むなら『FFXIV』らしくデカいところに突っ込んでみようという感じだったので、そこに向かって走ってこられてよかったなと思います。祖堅の話のくり返しになりますが、やっぱり『FFXIV』は光の戦士たちに支えられていまがあるんだなというのは、僕も今日ステージに上がって改めて感じました。

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──シヴァ自体はパッチ2.4で登場した蛮神ですが、なぜ第2部の“蒼天編”に組み込んだのでしょうか? また、なぜ弦楽四重奏という形を取ったのですか?

祖堅 あれはシヴァではなく、イゼルのテーマとして扱ったからです。よくファンフェスティバルなどでは、シヴァはわりとガーッていう(ロック調の)感じでやっていますよね。そこがイゼルとなると、やはり彼女は竜詩戦争の歴史を知っているせいで、いろいろ思うところが出てくるわけです。それを表現するにあたって、か細い線と線が絡み合ったようなイメージを押し出すには何がいちばん適切なのかと考えた結果、弦を4つ重ねるのがいちばんいいだろうということで、弦楽四重奏にしました。くり返しになりますが、あくまでもイゼルのテーマなので、蒼天編に組み込んだ感じです。

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イゼルの悲し気な表情が、弦楽四重奏の繊細な音色をより切ないものにしていた。

──弦楽四重奏自体も祖堅さんの案なんですか?

祖堅 はい。そうですね。

──植松さんは“Distant Worlds”で、『FF』シリーズのコンサートを100回以上も公演されています。『FFXIV』でそれを開催するにあたって、何かアドバイスのようなものをされたのですか?

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植松 こっちがアドバイスしてほしいですよ(笑)。単一タイトルでこれだけの集客力があるというのはすごいことで、“Distant Worlds”でそれを実現するのは難しいと思うんです。さっきも吉田さんと話していたんですが、とにかくファンの人たちが熱くて。今日のプログラムの最後に演奏した曲も“Distant Worlds”で演奏させてもらうのですが、海外の人たちと同じくらい国内のプレイヤーも熱いんです。どうして『FFXIV』はこんなに熱いんだろうという疑問みたいなものを抱くのですが、彼ら(吉田氏と祖堅氏)と話すと、やっぱり熱量が違うんです。それがお客さんに伝わっているんだと思います。僕はこの歳になっていますから、「ただがんばればうまくいく」なんてことは思っていないんです。いくらがんばっても、うまくいかないことは世の中にいっぱいあります。ぼんやりとしていては、決してうまくいかない。『旧FFXIV』はうまくいかなかったのですが、あそこからここまで立ち直らせた彼らの熱意というものが、会場を訪れてくれたお客さんを見るとすごくよくわかります。だから本当に、どうやればあんなにお客さんを入れられるのか、こっちがアドバイスされたいくらいです(笑)。

吉田 褒められ慣れていないから、恥ずかしいな(苦笑)。

祖堅 返す言葉がないので、何を言っていいのかわからない(笑)。

吉田 そうそう(笑)。ですがちょっと無茶したかな、とは思います。

──今日のコンサートの手応えからすると、『FFXIV』の海外での単独公演は可能でしょうか?

植松 可能だと思いますね。オーケストラコンサートではないものの、ファンフェスティバルなどで実際にベンヤミン(ベンヤミン・ヌス。欧州ファンフェスで演奏した実力派ピアニスト)によるピアノとスーザンさん(スーザン・キャロウェイ。『Answers』や『Dragonsong』などを担当)のボーカルですでに演奏しているので、「これは行ける」という感触は十分得ていると思います。

──とおっしゃられていますが、おふたりはいかがでしょう(笑)。

吉田 『FFXIV』はグローバルタイトルなので、やはり海外の方からも「お膝元の日本でやるのはわかるけれど、うまく行ったならばぜひに」という声をたくさんいただいているので……プロマックスさん、ぜひ海外公演の企画などを(笑)。今回1回やり切ったことで、ある意味パッケージにはなったと思うので、できれば海外の皆さんにも届けに行きたいなとは思います。

祖堅氏の衣装はすぐに決定! 一方吉田氏は……

──吉田さんはあまりタキシードを着る機会がないと思うのですが、感想をお聞かせください(笑)。

吉田 どちらかと言うと、皆さんの感想を聞きたいです。僕は似合ってないとしか思っていないので……(苦笑)。

祖堅 あれやこれや、たいへんだったんですよ。ちょっとふつうのシャツを着たら、みんなから「地味だなぁ」と言われたり(笑)。

吉田 「念願の燕尾服が着たい」ということで、祖堅は決まるのが早かったんです。本人も「チョッキだ! チョッキだ!」と言って喜んでいて、しかもすごく似合うんですよ。

──スリーピースですよね。

祖堅 そうです。燕尾服です。

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立ち上がって衣装を見せてくれた祖堅氏。

吉田 僕も燕尾服を着たかったんですが、先に取られました(笑)。さすがに壇上に並んだふたりが両方とも燕尾服なのはおかしいので……。必然的にタキシードになったのですが、シャツを着たらですね、みんな首を捻るんですよ。祖堅のほうはすぐ決まったのに。

祖堅 何事もなく決まりました。

吉田 僕は最初、祖堅と同じ蝶ネクタイを締めてふつうにシャツを着たんですが、何かが違うな……みたいな雰囲気で。「もうちょっとキャラに寄せたほうが」といった話になっていました(苦笑)。

祖堅 “今回はフォーマルでいく”というお題がもともとあったので、その通りにしたのですが、「なんだか地味だな」と。そこからいろいろ着けていったら……。

吉田 「ここ(シャツの前面)にシルバーを入れてみましょう」とか。

祖堅 「豹をつけてみましょう」とか(笑)。

吉田 豹柄はひどかった……これ(カマーバンド)に豹柄模様があること自体にびっくりで(笑)。

祖堅 「赤を入れてみましょう」とかいろんな案が出たんですが、最終的に歌舞伎町の男になっていましたね(笑)。

吉田 ちょっとみんな正気に戻って「もともとこうならないようにするんじゃなかったの?」と(笑)。周囲に言われた結果がこれなので……今日の最後に東京フィルハーモニー交響楽団さんの名前を噛んでしまったのは、そのせいだということにしてください(笑)。
(編注:初日の夜の部の公演で、吉田氏は東京フィルハーモニー交響楽団の名前がなかなかうまく言えずに、聴衆から「よしだあああああ!」のコールが巻き起こった)

──演奏といっしょにスクリーンにゲーム画面を流しておられましたが、あの映像を音楽に合わせるのはたいへんだったのではないでしょうか。

吉田 映像はある意味、海外公演も視野に入れた作りにしてあります。つまり、日本でオペレーションを行っているPAさん(音響スタッフ)はものすごく細かく合わせてくださるのですが、海外で公演を行ったときに、必ずしもそれと同じレベルにできるかわかりません。だからといって海外向けに別の映像を作るのは、とにかく数が膨大なので不可能に近くて。そこで、あえて“合わせない”選択をしました。じつはあの映像は、楽曲のタイミングと合わせていないんです。合わせたのは……アルテマの曲(『究極幻想』)くらいだったかな。今回の映像は、僕が最初にすべて字コンテを描いたうえで、髙井(髙井浩氏。デザインセクションマネージャー)と前廣(前廣和豊氏。シナリオセクションマネージャー)に構成を依頼しました。そこから仕上がってきたものを僕と祖堅が確認した感じです。アルテマはすぐバトルシーンに入ってしまっていたので、そこだけ「曲の盛り上がりを起動からバトルのところに合わせたい」と伝えたくらいです。曲自体はすでに知っているので、多少ズレてもうまく混ざるよう編集してあります。合わせるというよりは、ニュアンスがそう感じられるように、という感じで作りました。じつは、題字(冒頭で表示される曲名)を注意して見るとわかるのですが、英語表記を大きくして、その下に小さく邦題を入れてあります。グローバルでもやれるようにそうしました。

祖堅 なので、海外公演のお声がけをお待ちしています(笑)。

吉田 石油王とかね(笑)。

祖堅 そうですね。

──第1部の新生編のラスト3曲についておうかがいします。まさにバハムート組曲ともいうべき構成でしたが、新規ユーザーの中にはまだ大迷宮バハムートをプレイされてない人もいるのではないかなと。そんな中で、なぜこの3曲を入れたのでしょうか?

祖堅 現在は『紅蓮のリベレータ―』が発売され、レイドは次元の狭間オメガまで進んでいます。ですが、いちばん最初のレイドコンテンツである大迷宮バハムートは、幾多の光の戦士たちを駆逐してきたセンセーショナルなコンテンツなので……。

吉田 駆逐してはダメなんだが(苦笑)。

祖堅 (笑)。やはりそれくらい特別で、開発サイドとしても思い入れのあるコンテンツだったんです。サウンドを聴いただけであれほどゲーム体験が蘇るコンテンツは、いままでなかったものでした。『新生エオルゼア』からプレイされている方もたくさんいらっしゃって、その方たちにとってバハムートは特別な存在のはずなので、新生編のトリを飾る楽曲として大迷宮バハムートを用意することになりました。この部分に関しては、吉田と意見が完全に一致したので、あの3曲を最後に持ってきたわけです。

吉田 バハムートという存在がなければ、たぶん『新生エオルゼア』のメテオなどのアイデアが出なかったと思います。僕らだけでなく、『FF』シリーズのファンの皆さんも、おそらくバハムートをものすごく重要視されているはずなので、ごく自然に決まりました。バハムートはまさにゲームが新生するきっかけだったので、僕らにとっても格別な思い入れがあります。

祖堅 会場の入り口に開発者のメッセージボードが置いてあり、お気に入りの楽曲タイトルを書いてもらっているんですが、圧倒的に多かったのが『試練を越える力』でした(笑)。大迷宮バハムートで「オエッ」となるくらい聞いた曲です。プレイヤーの皆さんもきっと同じ思いのはずなので、僕としても入れたかったです。

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コンサートホールの入り口に、コアメンバー直筆のメッセージボードが設置されていた。コメントのテーマは“イチオシの曲”だ。

──まだ大迷宮バハムートをクリアーしていない方もたくさん来場されたかと思いますが、そうした人たちに対する「大事なコンテンツだから挑んでほしい」みたいな意味合いもあるのでしょうか?

祖堅 そこまでは……。

吉田 深く考えてはいないのではないかなと。レベル制限を解除して行ってくれたらいいな、くらいですね。

──今回演奏された楽曲は『FFXIV』に存在する膨大な曲目からすると、ほんの一部かと思います。第1部と第2部を含めて、選定はすんなり進んだ感じですか? あるいは、これはやりたかったけれど尺の都合で断念した……みたいなものもあったのでしょうか。

祖堅 めちゃめちゃモメました(笑)。

吉田 おもにここ(吉田氏と祖堅氏のふたり)が(笑)。

──今回は演奏できなかったけれど、これはやりたかったという曲はありますか?

祖堅 リムサ・ロミンサ、グリダニア、ウルダハの3国に加えて、イシュガルドもやりたかったかな。あとは、ダンジョンメドレーみたいなものも考えていました。たとえば怪鳥巨塔 シリウス大灯台も最後まで当落線上にあったのですが、尺が長くて……(苦笑)。そういう曲はたくさんありましたね。

──今回は新生編と蒼天編でしたので、いつか“紅蓮編”を聴きたい気持ちがすごくあります。

吉田 マネージャーから、「何とかして“紅蓮編”を入れられないんですか!?」みたいに言われました(笑)。僕は「ナシではないと思う。アンコールのラストであればいいかもしれないので、祖堅に聞いてみては」と返しました。ところが祖堅は「いまさら間に合うわけないじゃん」と(笑)。

祖堅 締め切りを2週間も過ぎた後に言われました。さすがの僕も「それは無理だよ」って(笑)。今回はしっかりとしたクオリティーを皆さんにお届けしたかったので、付け焼刃で作った譜面を演奏することだけは避けたかったんです。やるからにはしっかりやりたいので、NGを出しちゃいました。

吉田 とにかく今回を全力でやって、もし「つぎも!」というお声をいただけるのであれば“紅蓮編……たとえば“第1部ドマ編”で“第2部アラミゴ編”でもべつにいいと思っています。

祖堅 まだまだ『新生エオルゼア』と『蒼天のイシュガルド』でも、やっていない曲はたくさんありますよ!

吉田 だから、それをやっていたら紅蓮編にたどり着けないでしょう(苦笑)。もしつぎをやれるとしたら、また曲目選びで祖堅と取っ組み合いが起こるんだろうなと。開発チームだけではなく、運営やマネージメントの担当者の中にも『FFXIV』のゲーム体験や音楽に思い入れがある人が本当に多いので、みんなの意見を聞き始めると収拾がつかなくなってしまいます。……権力の順に決めていくことにします(笑)。

2日目の公演に「だまされたと思って来てみな」!

──祖堅さんはかねてより「サウンドはゲーム体験に寄り添うことが重要」とコメントされていますが、今回はゲームをプレイしているとき以上に“寄り添っている”感じがしました。これはやはり祖堅さんが作られた曲と、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏が生む相乗効果なのでしょうか?

祖堅 そこは、譜面の段階からめちゃめちゃ意識しています。やはりゲーム体験ありきなので、まったく原曲と違うオーケストラアレンジの曲を唐突に始めても、コンテンツに対する思い入れがなかなか蘇らないと思うんです。だから僕は今回、譜面上は2ループ……いわばふた回しの構成で、オーケストラ譜面のかなりの部分を作りました。ひと回し目は、ゲーム中で鳴っている音をそのままオーケストラでやったらどうなるのか、といったところに注力し、ふた回し目にはオーケストラならではの、“こういうこともできるんだよ”という要素を持ってきました、これによって、ゲーム体験により深く寄り添えるようになるのはもちろん、「オーケストラってすごいんだな」という部分を理解しやすくしたのです。

──脳裏にゲームの様子が浮かぶのはもちろんですが、オーケストラのすごさみたいなものを曲の後半でたしかに感じました。

祖堅 まさに狙ったところだったので、「やった!」って感じですね(笑)。

──曲目の中にクリスタルタワーがありましたが、これらは植松さんの“Distant Worlds”ではなかなか選ばれない曲かと思います。ご自身が27年前に作られた曲を、後輩である祖堅さんがアレンジし、このような場で披露されるというのは、植松さんとしてどのようなお気持ちなんでしょうか?

植松 うれしいような、恥ずかしいような感じです(笑)。何しろ自分のコンサートではやったことないですし……。

祖堅 めちゃめちゃいい曲じゃないですか!

植松 いくら欲しいんだい?(笑)

一同 (笑)

祖堅 こう言っておくと、つぎの楽曲を安く作ってくれるかも(笑)。

吉田 僕は『悠久の風』をやりたかったのですが、『FFXIV』の曲じゃないよなと……。でも個人的にはものすごく聞きたくて(笑)。

祖堅 クリスタルタワーメドレーみたいな案もあったんですが、尺がめちゃめちゃ長くなるのできびしかったです。でも今回のクリスタルタワーは、非戦闘時と戦闘時の2曲をひとつにまとめて、という工夫をしています。

吉田 ゲーム中でも、バトルに入った瞬間、通常時のBGMからバトルの曲へとスムーズに移行しますよね。あれは、そのために作ったシステムです。クリスタルタワー以降もいろいろなところで使っていますが、それをキッチリとオーケストラでも再現しています。そこも、ゲーム体験を再現するという部分に近いのかなと。

──植松さんは照れ気味で、あまりコメントを引き出せませんでした(笑)。

植松 恥ずかしいですね(笑)。

──それでは、2日目の公演に来場される方や、次回があるならば来場したいという方々にメッセージをお願いします。

植松 ファンの人は絶対に来たいでしょうね。来るべきだと思いますし、こういう会場で同じ『FFXIV』ファンとあの熱狂を感じると、さらにゲームに対する思い入れが強くなるのではないでしょうか。スーザンさんの生の声も、会場で聴けば説得力がぜんぜん違うと思います。ぜひ、泣きに来ていただければと(笑)。

祖堅 オリンピックの問題もあり、今後はなかなか会場を押さえられないと思います。よく「つぎはいつ?」と聞かれるのですが、わからないです。今回の公演は、オーケストラコンサートに興味がある方に絶対損はさせません。次回もやりたいですが、本当にいつになるかわからないので、来たほうがいいです……泣きに来てください!

吉田 オーケストラコンサートを開催する場合、我々のほうもファンフェスティバルと同じくらいの熱量が必要になってきます。もちろん「ファンフェスティバルをやりたいね」という声も上がっているので、だからこそこの規模のオーケストラコンサートはそう簡単には開けない……このことは、実際に公演をやってみてつくづく感じるところです。今後も公演を開きたいですが、次回のお話はまったくできない状態ですので、明日のふたつの公演にぜひお越しください。夜の部に関しては、Webではすでに売り切れですが、当日券が若干あります。昼の部は、さらにもう数百枚くらいあるみたいです。(チケットが残っているにせよ)ここまで達成できた時点で十分かとは思うんですが、迷っている方がいらっしゃるのであれば、損は絶対しないと思います。我々がMCをするぶんだけ、価値が下がっている感じはありますが(苦笑)。ぜひ泣きに来ていただければ幸いです。
(編注:チケットの残数は取材時のものです。記事掲載の時点ですでに売り切れている可能性があります)

祖堅 だまされたと思って来てみな! ってことですね?

吉田 そうです!

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『FFXIV』オーケストラコンサート“交響組曲エオルゼア” 吉田氏&祖堅氏&植松氏インタビュー_13
最後に祖堅さんを中央にしたパターンを求めたら、このポーズ(笑)。植松さんもこの笑顔。最高!