『FFXIV』のサウンドは、こうして作られる

 『ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド』以降の曲を収録した最新サウンドトラック『Heavensward:FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack』が2016年2月24日に発売された。これを機にサウンドディレクターの祖堅正慶氏とメインシナリオライターの前廣和豊氏に制作内容について話を聞いた。

 このインタビューは、週刊ファミ通2016年3月10日号掲載分に収まりきらなかった会話も含め、再編集した完全版。バージョン3.0はもちろん、2.Xシリーズや実装されたばかりのパッチ3.2の制作裏話にも及び、たいへんボリュームのあるものになっている。サントラを聴きながらじっくりと読むといいだろう。(2016年2月8日収録)

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『FFXIV』サウンド祖堅氏&シナリオ前廣氏が『蒼天のイシュガルド』サウンド制作を語る_01
▲前廣和豊氏(左)と祖堅正慶氏(右)。『FFXIV』の公式放送などで、しばしば息の合った掛け合いを見せてくれる。

発注リストは新曲ばかりでもいけない

──今回は祖堅さんと前廣さんにご同席いただいていますので、『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の音楽がどのように作られているかについて、おふたりそれぞれの視点でお聞きできればと思います。

祖堅正慶氏(以下、祖堅この前のファミ通さんのインタビューでは、雲神ビスマルクの曲のグチをお話しましたよね?(笑)

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──ビスマルクの曲の生みの苦しさについては、過去に2回ほどうかがいました(笑)。

祖堅 前廣からのオーダーにあったイメージが、「ビスマルクはデカい。神々しい。激しい」。あと、「空中戦だから“爽やか”」だったんです。「彼は何を言ってるのか?」と思いましたね。その要素を全部含んだ曲なんて、どうやって作ればいいんだと(笑)。

前廣和豊氏(以下、前廣) インタビューでそう話したと言うから、「まさかそんなことを……」と当時の発注リストを自分でも見直したところ、書いてありました(笑)。

祖堅 でも、「いちばん大切なのは空中戦」とあったので、それを最優先して考えればいいのだろうなと思ったんです。

──最終的には祖堅さんの解釈が活きたということですね。

祖堅 そうですね。でも、前廣は何事も、大事にすべきことをハッキリと指示して、そのうえで参考曲も用意してくれますから、イメージは正確に汲み取りやすいと思います。

──『FFXIV』のサウンドは、おおむねおふたりで相談して制作されているんですね。

祖堅 そもそもシナリオに対してコンテンツが作られることが多く、その根幹のシナリオを作っているのが前廣なんですね。だから整合性を取るために、しょっちゅうヤーヤー言い合っています(笑)。

──それは曲以外のサウンドに関しても?

祖堅 そうですね。ゲーム中の雰囲気は曲だけで構成されているわけではなく、環境音と効果音だけの場合もありますからね。

前廣 曲の発注は、シナリオチームだけに限らず、全セクションからの要望を僕が管理しています。つぎのパッチでどんなコンテンツが入るかを聞いて回り、その内容をヒアリングしたものをまとめて渡しているという感じですね。そこで祖堅と、「発注リストの曲数が多い」、「少ない」などとケンカをしつつ、最終的なリストに絞り込み、作ってもらうという(笑)。

──『蒼天のイシュガルド』のサウンド制作は、納期に対して発注数が尋常ではなかったようですね。

前廣 発注はエクセルの表にまとめて渡すのですが、いつもは一覧で表示できるのに、今回は画面をかなりスクロールさせないと確認できないほど物量がありましたから(笑)。

祖堅 リストを渡されたあと、「とりあえず考えて」と言われましたが、考えても無理だと思ったので突き返しに行ったら、前廣が吉田直樹(『FFXIV』プロデューサー兼ディレクター)という“盾”をつけて、「いいから今日は持ち帰って」とお願いしてきて……。

前廣 攻めるときには盾もないとね(笑)。

『FFXIV』サウンド祖堅氏&シナリオ前廣氏が『蒼天のイシュガルド』サウンド制作を語る_03

──その後は曲数を絞ったのに、けっきょくは最初の発注リストと同じくらいの曲数になったんですよね?

祖堅 そうですね。前回もお話をしましたが、3.0のダンジョンは、当初すべて同じ曲にする予定でした。でも進めていくうちに、なんとかやれそうな気がしてきて。前廣に「大至急!」と資料を請求したら、「ええ!?」と驚かれましたね(笑)。

前廣 だって、やれないって言ってたじゃない!(笑)

祖堅 それで、すぐに作ってくれた資料が完璧だったから、バンバン作業できたんですよ。

──“3.0のダンジョン”という曲が、ひとつあればよかったところが……。

前廣 そうなんです(笑)。パッチでダンジョンも増えていきますので、「最初は1曲にしておいて、2.Xシリーズと同じように増やしていけばいいよね」と話をしていたんですけどね。

──ヒアリングから発注に至るまでは、具体的にはどういう手順を取るのでしょうか。

前廣 パッチで新しく入るコンテンツが決まったら、そのリストをまとめて一度内容を分解します。「前半と後半で曲が変わる」ですとか、「こういうシステムが入るから緊張感を増すようにしよう」ですとか。既存の曲が使えるかどうか、新規の曲が必要かどうかを洗い出したうえで、初めて祖堅に相談して制作してもらうという流れです。

──そうしてできるのが発注リストですね。

前廣 そうです。知っている曲を充てるからこそ意味がある場面もありますから、あまり新曲ばかり増えてもいけないなと。たとえばボス戦なら、ボス戦の曲が流れるからこそ盛り上がったりしますよね。そういう線引きをしてから、新しいコンテンツには新曲を必ずお願いしています。迷ったら、その都度全部相談します。

──つまり、実現できるか否かは、サウンドチームの作業量や期間によって決まると。

祖堅 そうですね。前廣が言うことはわかるんですけど。毎回ギリギリを突いてくるんですよ。「できるだろ? そのくらい」って。こっちも「やるかー、クッソー」ってならざるを得ない(笑)。

前廣氏から祖堅氏への発注書は、とても人には見せられない!?

──発注の時点で、前廣さんの頭の中ではどの程度具体的な曲になっているのでしょう?

前廣 そうですね。イメージやノリを説明するための参考曲は、必ず渡すようにしています。それが曲の全体を指すこともあれば、部分的に指していることもあります。

──では、前廣さんのチョイスが、『FFXIV』全体の曲の幅に影響していると?

前廣 そうかもしれませんが、イメージ以上の、すごくいい曲を祖堅が仕上げてきてくれるので、それがあってこその幅ですね。

祖堅 ……3.0で前廣からもらったイメージはね、ぶっちゃけ『ガ○ダム』と『ヤ○ト』でしたよ。それしかなかった(笑)。

前廣 はははは。基本的に戦闘シーンは『ヤマ○』だよね(笑)。

祖堅 曲や環境音だけでなく、キャラクターの声のイメージを決めるのも前廣の役目なんですが、それもだいたいそんな感じで(笑)。

前廣 ……いやー、しょうがないですよね。頭の中、『ガン○ム』で生きてますから(笑)。発注書は趣味丸出しなこともありますが、最終的なインゲームには出していませんよ。強いて言えば、池田秀一さん(アシエン・ラハブレア役)のセリフぐらいです(笑)。

『FFXIV』サウンド祖堅氏&シナリオ前廣氏が『蒼天のイシュガルド』サウンド制作を語る_04

祖堅 あと、ちょろっとタ○ノコプロだよね。発注リストは、ほぼそのあたりの参考曲で構成されているから笑えますよ(笑)。

前廣 とても人様には見せられない(笑)。

祖堅 何を作りたいんだろう?(笑)

前廣 『ガンダ○』、『○マト』、タツ○コプロ、メタリカ。これぐらいしかない(笑)。

祖堅 そうだ、メタリカだ。蛮神の曲はだいたいメタリカです(笑)。

──どこまで書いていいのやら(笑)。前廣さんはふだんはどんな音楽を聴いていますか?

前廣 アニメの話をしたばかりですが、アニメの音楽は、アニメを観るから覚えてしまうわけで……。ふだんはあまり流行りの曲は聴きません。ゲーム音楽や映画のサントラなど。昔のゲーム音楽が多いですね。

──どのくらいの時期のものでしょうか?

前廣 ファミコンから何から。……少し話がズレますが、ゲームって、ゲームデザインと、音楽と絵が全部パックになっていて、総合芸術のようなものだと思うんです。その中でも、僕は音楽が特別だと思っていて。1本のゲームをプレイした後、5年、10年経っても思い出すものって音楽なんですよ。たとえば『FF』シリーズのボス戦の曲って、鼻歌で歌ったりできますよね。海馬の記憶領域が違うんでしょうけれど、音楽っていちばん記憶に直結していて、ゲームの中でいちばん大切なものだと思っています。僕はずっとゲームを遊んできたので、昔のゲームの曲はすごく聴いていますよ。昨日も仕事中に『レッキングクルー』を聴いていましたしね。

──祖堅さんはゲーム音楽を聴くのですか?

祖堅 ハマったものは聴きますよ。『バーニングレンジャー』とか。アレかっこいいんだよ! 光吉さん(セガゲームスのコンポーザー、光吉猛修氏)に、「どこで録ったんですか、あの曲?」と尋ねたら、「あのときはイケイケだったから、ニューヨークで録りました」って。あとは『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』とか、『ファンタシースターオンライン』とか。

──セガゲームスばかりですね(笑)。

祖堅 そうですね(笑)。とは言え、ゲームのサントラばかり聴くわけではないですよ。“ロックからロックまで”みたいな。

──(笑)。つねづね祖堅さんが作曲する曲の幅の広さがスゴいと感じているのですが。

祖堅 3.0は、吉田Pや前廣から「いままでにない感じを出したい」とオファーがあったので、いろいろ試しましたね。でも僕はロックが大好きなので、基本的に聴いているのはロックがほとんどです。だからといってロックしか聴かないわけではなく、クラシックもたくさん聴きます。家には、クラシックのレコードが何千枚も置いてありますよ。